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百獣の王といえばライオンンですが、魚世界の王は何と言っても「タイ」。くさってもタイ。養殖でもタイ。日本人に愛されめでたい祝儀の膳に欠かせないこの魚、日本の歴史と日本の神事、年中行事を常にささえてきたと言っても、過言ではありません。
タイが神事に使われるようになったのは、平安時代とされていますが、それ以前の石器時代にも食されていたようです。七福神の恵比寿さまの糸の先におどっているのもタイです。日本人はタイをめでたいに掛けてありがたがっている訳ですが、体色も赤く、その姿は実に優美で上品で、才色兼備のタイは見た目も中味もトップの名にふさわしいのです。
ところで、タイと名のつく魚は数知れず、300種を超えているのです。例えば西京漬けにしたら美味の「甘ダイ」。平べったいうえに頭の大きい「まとうダイ」。淡水の養殖魚の「チカダイ」。八丈島方面から南方でとれる「青ダイ」「浜ダイ」「姫ダイ」、ピンク色の「糸よりダイ」。これらはタイとは全く別種の魚です。ベラ科で巨体の「寒ダイ」。深海育ちで赤く美人の「金目ダイ」。同じくカサゴ科の「あこうダイ」。しわしわにお灸のあとのある「いぼダイ」、いぼダイの親類で灰かっ色の「目ダイ」。戦国時代の鎧に身を固めたような「武ダイ」、尾に黒い3本の斑紋のある三の字すなわち「にざダイ」。灰色の地肌に黒の石垣模様の「石垣ダイ」。幼い頃はエンゼルフィッシュによく似た「石ダイ」。夏には真鯛よりも評価が高い「めいちダイ」。徒然草のように書き連ねても終わらないタイあれこれ。生物学上タイと呼べるのは実は真ダイだけなのですが、この真ダイに近いのは「血ダイ=花ダイ」「連子ダイ」「ひれこダイ」「黒タイ」の4種です。
さて、「えびでタイを釣る」という言葉がありますが、これは本当のこと、タイはえびが好きで味も良くなるのです。真ダイと言えば明石のタイ、鳴門のタイが有名ですがこれは、主に「じゃこえび」を食べているからです。天然のタイの味が良くなるのは花咲く春と、脂肪ののってくる晩秋から冬にかけてです。初夏産卵を終えた真ダイは「麦わらダイ」と呼ばれ味も価格もダウンします。しかし日本海側の新潟では、麦わらダイの時期が、おいしくなります。
また、タイの寿命は非常に長く、20年以上生きて体長約1m40cmになることもあるそうです。どの魚もそうですが、日本の海に泳ぐ天然物は、見た目も身質も優秀ですが、ニュージーランド・パナマの真ダイ近種の輸入もの、又、養殖物もレベルアップしてきました。養殖技術の進歩と共に色も味も天然物に限りなく近くなりました。尾先がすり切れ、体色が黒ずんでいるという欠点を生けすにシートを張り、日焼けを防ぎ、エビをクロレラで育てた餌で赤い色素を表皮に残す方法で、カバーしたのです。
人間も夏は日焼けにご用心。海草や緑黄野菜を多くとり、糖分脂肪を控えめに、動物性タンパク質は肉ではなく魚でとる。日本人の美しい肌は日本古来からの食事で作られてきたのです。鮮度と色気が大切なのは人間界も同様。背中にエメラルド色に輝く点がならび、目の上が青紫色に光っている鮮度の良いタイをおさしみにしたら最高。又、利尻昆布でしめても美味です。又、身からうろこに至るまで捨てるところのない魚がタイです。うろこは油で揚げてうろこせんべいに、タイの頭はかぶと蒸し、あら煮に。鯛の押しずし、鯛めし、鯛そうめん、洋食ではムニエル、フライ、クリーム煮。実に調理方法は多いのです。
ところで、「タイ料理」で有名なのはトムヤンクンですが、これにはタイでなくエビがはいっています。また、日本には「たい焼き」という庶民的かつ美味な食べ物があるのです。頭からしっぽまで食べられるたい焼き。
「花は桜、柱はひのき、魚はタイ」と言われる通り、日本人の大好きなものを扱う職業に誇りを持ち、日本の歴史と生活の中に生きてきたポリシーを意識してみたらすてきでしょう。商売の奥は深く限りなく、大海の如し。タイでもうかることを期待しつつ、優美で上品な魚に負けないくらいチャーミングな人間になりたいと思う私は、やっぱり頭がおめでたいのでしょうか?(K・F)
横浜魚市場卸協同組合 |