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正月元旦、年中行事の第一歩である初詣。日頃神仏に縁の無いと思っている人も初詣には出掛け、一年の無事と幸せを祈願します。初詣といったら伊勢詣ですが、今回の主役は伊勢えびです。古くから神事の中心であった伊勢神宮のある三重県伊勢湾から発生し、二見ヶ浦の初日の出を受け、朱色に染まったと信じられてきた伊勢えび。タイと同様、お祝いの席には欠かせない祝肴でお正月のお飾り、おせち料理、慶事に登場し、日本の歴史と風習に平安時代より密接にかかわってきたのでした。
またえびは「海老」と書きますが、尾を曲げた姿が老人を連想させ、長命のシンボルと考えられた理由からで、頭にビタミンAしっぽにビタミンBがはいっているからではありません。
ところで、日頃ハンバーグやカレーといった食生活を余儀なくされている日本人もお正月にはおせち料理を食べ、そこに登場する数の子やえび、伊勢えびを嫌いな人は絶対にいないはずです。おせち料理には年末働きづめの女性をお正月に休ませるためのものという説の他にいろいろな願いがこめられているのです。一の重は天を表わし、二の重は人、三の重は地を表わし、それぞれに意味があります。一の重には飛ぶもの、はねるものが入っており、天のパワーを持つタイ・えびが入っているのです。えびはピチピチ元気に跳ね、風水でも開運の食べ物であり、中でも中心に置かれるのは伊勢えびです。
風水ではおせち料理は開運料理であり伝統行事は大切にすべきなのですが、何より大事にしたいのは日本人の心。家族の幸を願い日頃手抜きをしている主婦も一年に一回位丹精こめて伊勢えび等を入れておせち料理を作ったなら、誰もが伊勢えびの様に偏差値70の姿と味がそろったりっぱな人間になれるのではないでしょうか?
さて、伊勢えびはひげも足も全部そろったパーフェクトな姿にその価値があり、「具足焼」という名がある通りです。また伊勢えびの値打ちは味・姿の他にいまだに養殖が出来ない点にあります。伊勢えびは体長20〜50センチ位で、エビ類の中で最も堅い殻におおわれ、ひげ=触覚が非常に良いのが特徴です。そして千葉県から長崎県にかけての暖流の太平洋の岩場に棲み、護身用の2本の長いひげをたえず動かしています。伊勢えびは前には泳げず、後方にしか泳げません。胸の五対の脚は泳ぐためというより歩くためのものなのです。
次に伊勢えびの生態を紹介します。エビ類はいずれも硬い殻、すなわちクチクラ層を体表面に持っていますが、こういった動物は成長するために古いクチクラ層を脱ぎ捨てなければなりません。これは第一に成長の為の脱皮です。第二に体の損傷を再生するための脱皮があげられます。第三は産卵脱皮があげられます。産卵脱皮で重要なポイントはこの脱皮を行うのはもっぱら成熟したメスのみという点です。
エビ類の交尾行動は種類によって体位・行動・交尾時間がそれぞれちがいます。伊勢えびの交尾はメスが夜間産卵脱皮をした数時間後から3〜4日以内の、甲殻が軟らかい時期に行われます。メスとほぼ同じ大きさのオスが一対になって行われる交尾時間、実際は5分以内ですが、脱皮確認より交尾の行動にはいくつかの段階があります。オスは強大な左右の第二胸脚を大きく拡げアンテナを振り動かしながらメスに接近し、愛撫の動作を続け、他のオスが近づくと威嚇の行動をとり、他のオスエビを寄せつけないのです。そしてオスは脱皮後のメスに非常にやさしく常に保護的行動をとるそうです。
ところで伊勢えびの調理法ですが、なんと言っても活きづくり、お刺身が一番ですが、和風、・洋風アレンジは自由。しかしホテルの結婚式のフルコースに登場する伊勢えびのテルミドールはポピュラーなメニューのひとつですが、一度ゆでた冷凍ものを使った場合あまりおいしいとは言えず、伊勢えび片身より活車えび一匹食べた方がはるかにおいしいと思うのです。威勢の良い車えびの方がはったりだけの冷凍伊勢えびより勝るのは、料理人のせいではないのです。
でもテーブルの上に控えし伊勢えびを見たとたん、リッチな気分になるのですから、なんと目出たいエビの中のエビでしょう。今年も商売繁盛を願いつつ想います。いつでもどこでもせいいっぱいの努力をし、笑顔とビジ∋ンを忘れないまま人間らしく生きること、そしてエビの様に古い殻から脱皮することを。魚について学び、魚から学ぶことが多い気がいたします。(K・F)
横浜魚市場卸協同組合 |