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5月5日はこどもの日。「子供の人格を重んじ,子供の幸福をはかる」という国民の祝日です。大化の改新(645年)以来,中国にならい,5月5日を節日とし,厄ばらいの日に当てたのですが,この端午の節句には男の子の健やかな成長を願い,かぶとを飾り,空には鯉のぼりを泳がせます。
鯉のぼりが五月晴れの空にたなびく景観はさわやかですが,武家の時代,菖蒲が尚武に通じるということで戦陣に使われた吹き流しを家に立てたのがそもそもの始まりです。吹き流しは本来旗の一種で,長いさおにつけ,風になびかせました。これを見ていた江戸市中の町人が,出世魚といわれる鯉を吹き流しに見立てて,「腹,胸に一物もない」鯉のぼりを打ち立てたと言われております。それは,「黄河の竜門の滝を上った鯉は竜となる」という中国の登竜門の故事にならったためであり,中国でも日本でも鯉を尊んでいるからなのです。
「淡水の王」と言われる鯉,先日訪れた江ノ島の水族館でも威風堂々とした姿を見せておりました。黒く大きい真鯉が三匹,狭い水槽の中で行ったり来たり,池の中を泳いでいるのとはちがい,観察するにはやはり水族館,そしてその前には実に簡潔明瞭な説明文がかかげられていました。その文を引用しますと「鯉,CARPは,湖沼の他,川の中流や下流など流れのある所にも住んでいます。口には二対のひげがあり,水底のえさをさがして主食とし,特に貝類が好物です。外国ではもっぱら食用としますが,観賞用に品種改良されたニシキゴイは芸術品とも呼べる日本の特産種です。」
水族館の中には鯉の仲間として他にも「レインボーシャーク」「チェリーバルブ」「ラスボラギリス」とか,タイ・マレーシア出身の鯉とは似ても似つかない魚が何種もおりました。「タナゴ」「モロコ」「フナ」そして「金魚」もコイ科なのです。
さて,平安時代から飼われていた観賞用の鯉には「ひごい」「にしきごい」「鏡ごい」「ドイツごい」などの品種があります。食用としては真鯉が多く,利根川名産の天然ものの他,養殖ものも多く,長野の佐久地方をはじめ各地で鯉の養殖が行われています。鯉は4月から7月に産卵し,稚魚は2センチ位からひげを持ち,1年で全長15センチになります。市場へは真鯉の2年ものが多く入荷しますが,大きいものは1メートルを超えるものもいるのです。
ところで,中華料理では鯉の丸揚げが,コース料理の華であり,とても美味しいのですが,なんといっても鯉料理はあらいとこくが最高です。あらいにする時には,必ず生きているものを使いますが,天然ものの場合,1日ぐらい泥をはかせてから黒い胆のうをつぶさないよう注意しながらおろします。胆のうは苦玉と呼ばれて非常に苦く,つぶすと魚そのものまで食べられなくなるのです。
生きたものをまな板の上にのせ,包丁のみで鯉の頭のつけ根を力強くたたき,気絶させ,仮死状態にしておろします。「まな板の鯉」にはなりたくないけれど,食べたい鯉料理。他に甘露煮も美味ですが,「鯉こく」は,昔から母乳の出を良くする薬効があります。「鯉こく」とは,鯉を輪切りにして煮こんだ赤みそしるのことです。
恋の旬は特に無く,季節を問わず一年中。初恋から老いらくの恋まで種類は豊富。体長,年齢,形は不特定,日本全国,世界各地,至る所に分布しています。水深100メートルに沈む恋もあれば,水面にただよう恋もありますが,養殖ものより天然ものに限定されています。調理方法は煮ても焼いても食べられないのですが,鯉の唐揚げも恋のからさわぎもさめないうちが花。鮮度が命なのも同様でしょうか。
中華料理のフルコースの最後の方に登場する鯉。そして人生のフルコースのどこに登場するのか定かでない恋。恋した結果,結婚ー妊娠,出産,そして鯉こくが必要になるという「恋と鯉との因果関係」が成り立つのです。「一日一寸,十日で一尺」というこい釣りのことわざがありますが,釣るには根気と経験が必要ですが,恋を語るにも年期と体験がいるようです。
シェークスピアもあっと驚く恋がしてみたいと誰れもが想うところですが,恋人の質にこだわり,理想は高く,現実は厳しく,恋する相手は魚が一番。魚に恋して真剣勝負。菖蒲の花のように美しく,剣のような葉のように,するどくつややかに香りたいものです。(K・F)
横浜魚市場卸協同組合 |