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12月は師も走るほど忙しい月。お歳暮,忘年会,ボーナスと,一年中で一番盛り上がる最後の月です。一年中ひまそうで,ひまでないのが主婦。その主婦の強い味方である白ス。忙しくて料理の手を抜きたいけれど栄養バランスの良い食事作りをするのに最適なのが白スです。
朝食は特に時間をかけたくないし,アジの開きを焼くよりはるかに簡単。むしろだいこんをおろす方がめんどうくさいぐらいです。そして器に皮も骨も残らないから食器洗いも簡単。ごはんに海草に,小魚といったメニューは子供からお年寄りまで誰からも好まれています。
ところで白スとは、背黒いわしの稚魚を塩湯の中で煮あげて干したものですが、白スは関東での呼び名です。箱根山を境に関西では「ちりめん」と呼ばれています。魚の中では一番のスモールサイズであるけれど栄養はビッグ。ぴっくりするほどカルシウムが豊富なので、師走といわず一年中愛され食されている魚です。
白スの旬は春と言われていますが,この魚,春と秋の年2回,産卵孵化する多産の第一人者です。そのうえ他の魚を育てるために我が身を餌にしている実にえらい魚なのです。
さて,今回白スを書くにあたり,市場大学塩干学部の教授でいらっしゃる丸魚の本間林作先生に白ス講義をうかがいました。「白スの神様」と呼ばれ,日本で三本の指にはいると言われる本間先生に実戦英文法ならぬ実戦白ス商法と白スの美学について質問し,学んだことを次に記します。
はじめに,白スの産地についてですが、舞阪産・宮崎産とか,産地にこだわらない方が良いのです。日本海では全くとれない白ス、太平洋側では南は九州・沖縄・インドネシアまでとれます。北限はと言うと,宮城県と福島県の境,名取市までとれるけれど,ここから上はとれません。日本海では何故とれないか,その答えは,対流のせいなのです。また関東・関西では人気の高い白スですが,秋田・青森・岩手ではあまり食べられていません。
さて,関東では白スを,関西では「ちりめん」と呼びますが,これは商売言葉であるけれど「ちりめん」と呼んだ方が風情があり、絹織物を連想するようで響きも美しいとは本間説。常磐では白スを「坊主」と呼びますが,顕微鏡で見ると坊主の頭にそっくりなので納得。
また,常磐では「白魚:しろうお」「白子:しろこ」と呼ぶ所があり,土佐の高知では「太白:たいはく」と呼んでいます。高知では毎年2月に「どろめ祭り」が行われていますが,「どろめ」とは生の白スのこと。どろっとした中で目だけ光っているようすからどろめと呼んでいます。所変わって舞阪では,魚偏に氷と書いてしらすと読ませますが,この名の由来は,空気にあてれば氷のようにすぐに溶け,水になることからきています。
さて,現在白スの価格はキロ三千円から五百円まで取引されていますが,選び方のポイントは,1大きさ・2色合い・3味,おいしさです。123の順番は人によってランキングがちがい,好みを決めるのはあくまでも消費者であります。しかし多数決でいけば,小さくて色白で,甘塩であるというのが優秀賞といったところ。
ところで本間先生によれば,白スは人間と同じだそうで,同じ顔を持った人がいないように,白スにも同じ顔が無いのです。白スのオスメスの見分け方は?「白スに聞きなさい」と言われましたが,全部メスというのが本間説。何故なら愛すれば愛するほど,白スが本間先生に寄ってくるからなのだそうです。
産地を訪れると,白スのとれる所はとにかく美景なのだそうですが,あがってきた白スを見る本間さんの目は,百万ボルト,子供を見つめる目であり,真に白スを愛し,極めた男の目なのです。入社以来39年間白スに魅せられ,男のロマンを追い続ける,「前人未踏驀進中」という先生に学び,とても感激いたしました。
最後に「魚をやっている人は魚を愛さなくてはいけない」との言葉が,胸にじんときましたが,大切なのは愛する事情でなくて愛する2乗。魚に対して勉強も愛も足りない自分ですが,これからの努力と愛が大切。卸協力いただいた本間先生に心かち感謝いたします。
江の島近く、腰越の「しらすや」さんに白ス定食,いえ,ちりめん料理を味わい,湘南海岸の汐風に吹かれながら,車を走らせましょう。魚にかける女のロマンはいまだ書けないけれど,「なぜかしら 好きな魚にひとめぼれ,もうけは無視の市場かな」と悲しき歌を詠む平成10年の師走。
男一匹白スにかける,遠山の金さん白洲にかける,女はカラスの足あと気にかける。悩めるハートだれ知らず。(K・F)
横浜魚市場卸協同組合 |