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人類の出現よりはるかに早く発生したサケ。旧石器時代の化石から当時の人間は、すでにサケを食べていたそうです。フィンランド最古の民族叙事詩「カレワラ」には、天地が創られた時、最初にサケが泳ぎだし、つぎに人が生まれたと語られているのです。そしてフィンランドやノルウェーなどでは、サケを「神聖な魚」として古くから尊んでいます。
日本でもアイヌ人達は、「神の魚」という意味である「カムイ・チェプ」と、サケを呼んでいるのです。そしてアイヌ語で「アキアチェプ」が転じて「あきあじ」といい、それを「秋味」と当てたサケが、今回の「魚あれこれ」の主役なのです。淡水で生まれたサケは北太平洋の冷たい海に出て回遊し、成長し、秋になると再び生まれた川に帰って卵を産みます。初夏に北海道の沖合いを回遊している白サケは「時知らず」、または、「時サケ」と呼ばれています。
「時サケ」は沖で獲れるため、脂がのり最高においしいのです。そして秋口、川に上るために沿岸に近づくサケが「秋味」と呼ばれ、今回の主役であり味ではトップスターの産にふさわしいサケなのです。日本の川にのぼるサケはほとんどが「白サケ」ですが、その生涯がクライマックスを迎える時、味も呼び名も変化するのです。
「秋味」に塩をしたものが新巻鮭ですが、昔、鮭に塩をし、形をくずさないようにするため荒縄を巻いたものを「荒巻」と呼びました。そして「荒巻」が「新巻」になったとか。塩をすることにより香りもおいしさもぐっとアップするため塩サケが日本人に大変好まれるのです。
さて、川で生まれ海にくだる降海型と、川にとどまる河川型とに分けられるサケ、英語で「サーモン」と呼ばれるのが前者。「トラウト」と呼ばれるのが後者であります。主役「秋味」につくわき役達、サケ、マス入り乱れて紹介いたします。 降海型の「キングサーモン」は「ますのすけ」とも呼ばれ、全長2メートルに及ぶ最大級高級サケです。同じく降海型の「樺太ます」は、「せっぱります」とも呼ばれ全長45センチ位で、サケ類最小です。やまめの降海型を「さくらます」といい、湖に住む紅鮭を「姫ます」といいます。その他、「紅鮭」「銀鮭」、子役の「筋子」「いくら」も忘れてはなりません。
9月から10月にかけて北海道各地では「秋味祭り」が開かれています。「千歳」「十勝」「薫別」など、サケのつかみどりや漁獲風景を見学できるので、観光客が多いそうです。その際、石狩なべが振る舞われるそうですが、「サケ」調理法、スタンダードは石狩なべをはじめ、ステーキ、照り焼き、押しずし、マリネ、粕づけ、シチュー、ハンバーグ、ムース、氷頭なます、等々、アレンジのしがいがあります。
ビタミンの豊富な「サケ」、栄養バランスも良く、アスタキサンチンという熱につよい色素を多く含んでいます。ですから調理のレパートリーをひろげてくれるのです。
ところで、サケが海に出てから再び川に帰るまで、約4年間かかりますが、その長い旅路は数千キロにもおよびます。そして不思議にも故郷の川に帰り来るその能力、川のにおいを記憶しているという説もありますが、いまだ神秘のベールにつつまれています。川を上り始めたサケは何も食べず激流を上り、雄はあごがのびて「鼻曲がり」となり、銀白色の体は赤みの混じった黒っぽい婚姻色となり、やがて雌雄ペアを組み産卵するのです。そして精根つき、死にゆくサケ、実にドラマチックな生涯です。
この頃、動物界で、一番ロマンチックなのは「鹿」。「秋の鹿は笛に寄る」との言葉通り、秋の牡鹿牝鹿は、お互い求めあう気持が切実なのです。人間界では一年中恋の季節。「コイ」より「サケ」、「サケ」より「酒」の好きな方も「サケ」に負けないくらいロマンを秘めたステージを一生、いえ、一幕、演じてみては、いかがでしょうか。人生というステージの主役はいつも私達。スポットライトは暮れゆく秋の夕日?せり台もまた、演出家のいないステージでしょうか?(F)
横浜魚市場卸協同組合 |