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冬来たりなば春遠からじ」という言葉がありますが、冬からおいしいにしんは、春を告げる魚といわれています。横浜に住む私達にとってはあこがれの北海道、その雪に閉ざされる北国の長い冬、美しい白い世界と厳しい寒さは想像もつかない程ですが、にしんが群れて来る頃、北海道の長い冬は終わるのです。「春告鳥」とは「うぐいす」であり、「春告魚」とは「にしん」なのです。
にしんが産卵のために北海道沿岸に押し寄せて来て、海藻という海藻に雌魚が産卵し、雄魚が海中に放精し、そのため産卵場一帯の海が真白に変わったほどでした。この現象を「群来る(くきる)」と言います。この春(3月)の産卵にしん漁業、たった2、3日の間の漁で網元の漁師は莫大な利益を得、「にしん御殿」が建ち、そして「ソーラン節」に歌われたとおり空にはにしんをねらう海鳥が乱舞し、浜には漁師達の声が響き渡っていたそうです。
しかし、全ては遠い昔の話。江戸時代後期から始まったにしん漁は明治に全盛期を迎え、昭和29年以降減少し続け現在ではオホーツク海域で、わずかにとれるだけになってしまいました。にしんは北太平洋と北太西洋の寒冷海域に住む回遊魚ですが、日本に姿を見せ、減少した「太平洋にしん」にくらべ、「大西洋にしん」は現在でも多くとれます。現在日本にはアメリカ、ノルウェーからの輸入大西洋にしんが、ポピュラーになっています。
さて、にしんはにしん科ですが、いわしの仲間なのでいわしに似て形は細長く全長40センチほどです。にしんが成熟するのは3〜4歳で、下あごが上あごより出ており側線ははっきりせず、いわしに似ているけれど体に黒い斑点は無いのです。また、漁獲の際に内出血して目が赤くなることが多いのでにしんの目は鮮度の目安にならないのですが、鮮度と味も落ちやすく、小骨も多いという欠点があります。
しかし冬になると脂の乗った北国の魚は姿より味が勝負。塩焼き、和えもの、煮物、マリネにしても大変美味で栄養価も高いのです。にしんにはビタミンEと同様の効能を持つセレンが多く含まれ、又、ミネラルも豊富で成人病を予防し、生殖機能を活発にするというすぐれた特長があるのです。にしんを食べると妊娠するのかとストレートに考えないでしょうが、卵が多いので「妊娠魚」がにしんの語源であるというのは本当なのです。
ところで、このにしんの卵ですが、かつて北海道でにしんのことを「カド」と呼んでおり「カドの子」が変化して「数の子」になったと言われています。スケ宗よりもタラ子、タラ子よりも白子、にしんより数の子の方が優秀、価格も上だし人気も高い。子の方が親まさりの例は人間界にも魚世界にも多くあります。一時期「黄色いダイヤ」と言われた数の子は正月には欠かせない祝い肴の主役であり市場でも12月の売上高をアップさせるスターなのです。
にしんは欧米ではくん製・塩漬け・酢漬けにされ良く食べられ、フランス人はオリーブオイル漬けを好み、イギリス人は朝食ににしんのくん製をスクランブルエッグと共に食べるのを好むそうです。日本には身欠きにしんの存在がありますが、生干しはそのまま焼いたり煮たりします。本干しの身欠きにしんは2〜3日米のとぎ汁につけもどし煮つけ、昆布巻き甘露煮などにします。北海道では大根・人参といっしょにこうじで漬け込んだり、三平汁にしたりしますが、にしんそばのおいしさは又格別で、京都に行かなくても食べたい名物料理です。
とにかく、頭にもお肌にも良い魚あれこれですが、犬の毛並をピカピカにするのには身欠きにしんが一番効果的なのだそうです。犬も品評会が近づくと毎日身欠きにしんを食べ、毛づやを良くし、人間も椿油を髪の毛につけるよりにしんを食べる方がべター。けれど、毛並みは良くなっても血統は変わらないところが残念です。あとは犬も人間もしつけと育て方に期待した方がいいでしょう。
本当にしん実のみを書くことが編集員の仕事なのでしょうが、真実は小説より奇なり?身欠きにしんの効果を犬がいないので我が子で試して見ようと思いました。冬の寒さにも負けず、明るく元気にしん年を迎えたいものです。(K・F)
横浜魚市場卸協同組合 |